相続時口座照会制度とは?2025年4月開始の新制度と今後の銀行・証券の一括対応を解説

相続時手続きにおいて、故人の口座がどこにあるかわからない、といった状況は珍しくありません。
2025年4月1日、この問題を解消するための新しい仕組みとして、「相続時口座照会制度(正式には「相続時預貯金口座照会」)」がスタートしました。故人のマイナンバーに紐づいた預貯金口座を、一度の申請でまとめて照会できる制度です。
ただし、この制度には「マイナンバーと紐づけた口座しか照会できない」という条件があります。使い方を誤ると、口座が一件も見つからないまま5,060円の手数料だけかかる、ということにもなりかねません。
本記事では、制度の正確な仕組みと手続きの流れ、メリットと限界、そして実務での使い方まで、詳しく解説します。
相続時口座照会制度とは(2025年4月1日開始)
従来、相続人が故人の預貯金口座を調べるには、心当たりのある金融機関をひとつずつ訪問し、個別に照会するしかありませんでした。通帳やキャッシュカードが手がかりになるケースもありましたが、近年はネット銀行や通帳レスサービスの普及により、目に見える証拠が残りにくくなっています。
どこに口座があるか分からないまま遺産分割を進めると、後から別の口座が発覚して遺産分割協議をやり直さなければならなくなることもあります。相続税の申告が必要な場合は、財産の見落としが申告漏れにもつながります。
こうした状況を受け、口座管理法(正式名称:預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律)が施行され、相続時口座照会制度が整備されました。
この制度を理解する上で最も重要なのが、「付番(ふばん)」という概念です。付番とは、故人が生前に金融機関へマイナンバーを届け出て、自分の口座と紐づける手続きのことです。この付番が済んでいる口座のみが、相続時口座照会の対象になります。
付番はあくまで任意であり、強制ではありません。2025年4月1日以降は、口座開設や重要な取引の際に、金融機関が顧客に対してマイナンバー紐づけの意思確認を行うことが義務づけられています。
なお、「付番すると国や税務署に残高が筒抜けになる」と心配される方もいますが、デジタル庁はそのような仕組みにはなっていないことを明示しています。付番をきっかけに残高や取引履歴が自動的に行政機関に共有されることはありません。[泉中1.1]
相続時口座照会の仕組みと流れ
ここでは、相続時口座照会制度の仕組みを順を追って説明します。申請から照会結果の受け取りまで、おおむね1か月程度かかります。
①相続人が金融機関窓口で申請する
相続人(包括受遺者を含む)が相続時預貯金口座照会の申込み受付に対応している金融機関で手続きを行います。
【必要書類の例】
- 申込書・個人情報の第三者提供に係る同意書(金融機関の指定用紙)
- 被相続人の死亡が確認できる書類(除籍謄本など)
- 相続人であることを証明する書類(戸籍謄本一式、または法定相続情報一覧図の写し)
- 申請者の本人確認書類(運転免許証・マイナンバーカードなど)
- 手数料:5,060円(税込)
申請できるのは、原則として相続人(包括受遺者を含む)またはその代理人等です。遺言執行者などが手続きできるかは、申込先の金融機関の取扱いに従って確認しましょう。
なお、被相続人のマイナンバーカードの提示は申請時には原則不要です(預金保険機構が情報を取得します)。
また、申請時に故人の死亡を届け出ることになるため、各金融機関に情報が伝わり口座が凍結される可能性があります。葬儀費用や当面の生活費など、相続財産から急ぎ支払いたい費用がある場合は、申請前に預貯金の仮払い制度を利用できるか確認しておきましょう。
②金融機関から預金保険機構に通知される
申請を受けた金融機関が、預金保険機構(DICJ)に対して照会があった旨を通知します。
③預金保険機構が全国の金融機関に照会する
預金保険機構が全国の金融機関に対して、被相続人のマイナンバーを通知し、紐づけされた口座の有無を一括で問い合わせます。
④各金融機関が照会結果を預金保険機構に返す
通知を受けた各金融機関は、被相続人名義の付番済み口座を管理しているかどうかを預金保険機構に返答します。口座がある場合は「金融機関名・支店名・預貯金の種類・口座番号」を報告し、ない場合はその旨を返します。
⑤預金保険機構から相続人に結果が郵送される
最終的に、預金保険機構が相続人に対して照会結果を郵送で通知します。通知されるのは「金融機関名・支店名・預貯金の種類・口座番号」であり、残高は含まれません。
⑥判明した口座で個別に手続きを進める
口座の所在が判明したら、各金融機関に対して個別に残高証明書の請求や解約・払い戻し手続きを行います。
相続税の申告が必要な場合、預貯金については、死亡日時点の残高を確認するために残高証明書を取得するのが一般的です。
また、生前贈与や名義預金、多額の出金の有無を確認するため、必要に応じて過去数年分の取引明細を確認することもあります。
相続時口座照会制度のメリット
相続時口座照会制度のメリットは、主に以下の3つです。
① 一度の申請で複数の金融機関を横断的に照会できる
これまで一行ずつ窓口を回っていた作業が、1か所の申請で済みます。故人が多くの金融機関と取引していたケースや、取引先が不明なケースで特に効果的です。
② 「知らなかった口座」の漏れを減らせる可能性がある
遺産分割協議後に別の口座が見つかると、追加の協議や手続きが必要になる場合があります。早い段階で照会をかけておくことで、このリスクを下げることができます。
③ 手数料が定額で費用の目安が立てやすい
申請1回あたり5,060円(税込)と定額です。複数の口座が見つかっても追加料金は発生しません。
相続時口座照会制度の注意点・デメリット
一方で、相続時口座照会制度には注意すべき点や、デメリットもあります。
① 照会できるのはマイナンバーと紐づいた口座だけ
故人が生前に付番していなかった口座は、照会に引っかかりません。制度が開始して間もないため、すべての口座を付番している方はまだ少数派であり、「該当口座なしとの照会結果だったが、実際には口座があった」というケースも十分起こり得ます。
加えて、預金保険機構が住民基本台帳ネットワークからマイナンバーを取得する際、戸籍の住所表記と住民票の住所表記が異なるといった理由でマイナンバーを特定できず、付番済みの口座があっても「該当口座なし」と通知されるケースもあります。「該当なし=口座がない」とは限らない点に注意が必要です。
この制度はあくまで補助的な手段として位置づけ、通帳・郵便物・スマホのアプリなど従来の手がかり調査と併用するのが実務上は現実的です。
② 申込み後の取消し・修正・変更は一切できない
照会の申込み受付後は取消しや修正、変更はできません。申込書の記載内容に誤りがあるとマイナンバーの照合に失敗し、正しい結果が得られないこともあります。口座が1件も見つからなくても手数料(5,060円)は返金されないため、申込書は記入見本をよく確認の上、慎重に記入してください。
③ 照会結果は「口座の所在」のみで残高・証明効力はない
通知に記載されるのは金融機関名・支店名・口座種別・口座番号のみです。残高を確認するには、各金融機関で別途、残高証明書等を取得する必要があります。
また、照会結果通知書は口座の存在や「その口座が相続財産である」ことを法的に証明するものではなく、金融機関での実際の相続手続きには戸籍謄本・遺産分割協議書・印鑑証明書など所定の書類が別途必要になります。
④ 申請できる期間は死亡から10年以内
照会ができるのは、被相続人が亡くなってから10年以内に限られます。相続が長期化しやすい案件(相続人が多い・遠方に居住・遺産分割が難航しているなど)ほど、口座の所在把握だけでも早めに行っておく価値があります。
銀行・証券会社の相続手続き一括対応の動向
相続時口座照会制度が「口座の所在を特定する」ための制度だとすれば、その後の「各金融機関での解約・払い戻し手続き」をいかに効率化するかが次の課題です。この点でも、大きな動きが出てきています。
大手金融機関が一括対応の新会社設立へ
2026年4月、日本経済新聞はSMBC日興証券が主導し、大和証券グループ本社・野村ホールディングス・三菱UFJモルガン・スタンレー証券・三井住友フィナンシャルグループ・三井住友信託銀行・三菱UFJ信託銀行の7社が、相続手続きを一括で進められる新会社を今秋にも設立する方針であることを報道しました。
システム開発を担うNTTデータなどを含めた10社で覚書を交わしており、2027年夏に一部地域で試験導入、2028年秋の全国サービス開始を目指しています。
何が一括化されるのか
新たな仕組みでは、相続人が1社に連絡すれば参加する金融機関のどこに口座を持っていたかが分かるようになります。戸籍謄本などの書類提出もウェブ上へのアップロードで済むため、相続人が遠方に住んでいても手続きができます。ただし、これは「各金融機関による相続実行の手前の段階まで」の対応です。
その後の段階についての運用範囲は今後の制度設計・参加金融機関の取扱いに左右されるため、サービス開始前の段階では「すべての手続きが完全に一括化される」とまではいえません。
相続人だけでなく金融機関にもメリット
金融機関にとっても、人件費や郵送費など金銭的コストを3割程度減らせるとされています。有価証券や現預金の相続額は2024年に12.9兆円と2015年の7.1兆円から8割増え、相続財産全体の5割を超えるまでになっています。少子高齢化が進む中で増え続ける相続手続きへの対応として、業界を横断した効率化の仕組みづくりが急務となっています。
実務でどう活用すべきか
制度の仕組みを理解した上で大切なのは、「いつ・どのように使うか」という判断です。便利な制度ですが、使い方を誤ると二度手間になることもあります。
制度を積極的に使うべきケース
以下のような状況では、相続時口座照会制度を早めに申請することを検討してください。
- 故人の取引銀行が不明・または複数にわたる
- 通帳が見つからない、またはネット銀行の利用が疑われる
- 相続人が遠方に住んでいて銀行を個別に回れない
- 遺産分割協議の前に財産の全体像を把握したい
特に、遺産分割協議を進める前の段階で照会をかけておくことで、後になって別口座が発覚するリスクを防ぎやすくなります。
制度だけに頼らず、従来の調査も並行して行う
付番状況が不明な場合や、古い口座が疑われる場合には、制度による照会だけでは不十分なことがあります。次のような従来型の手がかり調査も同時に行うのが実務上のセオリーです。
- 郵便物(金融機関・保険会社からの通知、配当金案内など)
- 通帳や取引印鑑の有無
- スマートフォン内の銀行・証券会社のアプリ
- 確定申告書の控えや医療費控除の口座履歴
- 年金の振込口座、公共料金の引き落とし口座
株式・投資信託は別制度で調べる
株式や投資信託の有無が疑われる場合は、証券保管振替機構(ほふり)の「登録済加入者情報の開示請求」を利用する方法があります。これにより、振替株式等の口座が開設されている証券会社・信託銀行等を確認できます。ただし、銘柄名・取引履歴・保有残高までは確認できないため、詳細は開示結果をもとに各証券会社等へ問い合わせる必要があります。手数料は1件あたり6,050円(税込)です。
相続手続きをスムーズに進めるポイント
相続が発生すると、口座照会以外にもさまざまな手続きが期限付きで発生します。相続放棄は、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内、準確定申告は相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内、相続税申告は相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります。対応を誤ると取り返しのつかない事態になることもあります。早い段階で全体の段取りを把握しておくことが重要です。
よくある質問
ここでは、相続時口座照会制度について、よくいただくご質問にお答えします。
Q. 制度を使えば、故人のすべての口座が必ず見つかりますか?
そうとは限りません。照会できるのは、故人が生前にマイナンバーを届け出て紐づけた口座のみです。付番されていない口座は照会結果に反映されないため、心当たりのある金融機関には個別に問い合わせることを併せて検討してください。この制度は「絶対に全口座が判明する」ものではなく、あくまで調査の一手段です。
Q. 照会すると被相続人の口座が凍結されますか?
申請の際に故人の死亡を届け出ることで、各金融機関に情報が伝わり、口座が凍結される可能性があります。生活費や葬儀費用として急ぎ資金が必要な場合は、仮払い制度(遺産分割前に一定額を引き出せる制度)の活用についても、申請前に専門家に相談することをおすすめします。
Q. 口座が1件も見つからなかった場合、手数料は返金されますか?
返金されません。申請が受け付けられた時点で手数料(5,060円・税込)が確定します。付番の状況が不明な場合や、照会より先に個別照会で手がかりが得られているような場合には、申請すべきかどうか専門家に相談した上で判断されることをおすすめします。
Q. 代理人が申請することはできますか?
司法書士などの専門家が代理申請することが可能です。必要書類の収集から申請・各金融機関での後続手続きまで一括してサポートを受けることで、手続きの漏れや手間を大幅に減らすことができます。
煩雑な口座調査から解約手続きまで、プロに丸ごと任せませんか?
2025年開始の新制度により口座の把握は容易になりますが、その後の各金融機関への提出書類の準備や、遺産分割協議書との整合性を取る作業は依然として大きな負担です。
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