アパートの相続で考慮すべき5つのポイント
アパートを相続したら、どのような点に注意すれば良いのでしょうか?
まずはチェックすべきポイントがいくつかあるので、押さえておきましょう。
この記事ではアパートを相続する際に考慮すべきポイントを5つご紹介します。
アパートの相続人になった方はぜひ参考にしてみてください。
1.アパートを相続したときにすぐに行うべきこと
アパートを相続したら、まずは以下のような点を確認しましょう。
1-1.ローンが残っていないか確認する
被相続人がアパートローンを利用していた場合、ローンも相続人へ相続されてしまいます。
またオーバーローン物件かアンダーローン物件かでも遺産分割における対応が変わってきます。
まずはアパートにローンが残っていないか、残っているならいくらの残債があるのか確認しましょう。
1-2.オーバーローンかアンダーローンか調べる
アパートローンが残っている場合には、オーバーローンかアンダーローンかを調べましょう。
アンダーローンなら、アパートを売却して残債を全額返済できます。
オーバーローンの場合、売却してもローンを完済できないので、残りは相続人が負担しなければなりません。
アンダーローンかオーバーローンかは、アパートの予想売却価額と残ローン額を調べればだいたいわかります。
予想売却価額は不動産業者に確認するなどして、早めに把握しましょう。
1-3.空室状況、入居者情報を確認する
次にアパートの空室状況や入居者情報を把握すべきです。
調査が必要なのは以下のような項目です。
- 空室率
- 入居者の属性、家族構成など
- 現行の家賃額
- 預っている敷金の金額
- 現在家賃滞納がないか、あるとすればその金額
- これまでの家賃滞納の有無や金額
- 家賃保証会社への加入の有無
- 契約の更新時期
たとえば3か月以上など長期にわたって家賃を滞納している人がいる場合、訴訟などの法的措置をとらざるをえない可能性もあります。
現行の家賃が相場より高い場合、次の契約更新時や入居者の入れ替わり時期に家賃を切り下げられる可能性があります。
1-4.経営状況を確認する
アパートの経営を引き継ぐか売却するか決める要素として、経営状況の把握が不可欠です。
以下のような項目を確認して経営状況を把握しましょう。
- アパートの収支、キャッシュフロー
- ローンの残債の金額や月々の返済額
1-5.修繕の必要性や時期を確認する
アパートの設備や外壁などは、一定年数が経過すると修繕しなければなりません。
古くなっていて修繕が必要になると、そのための費用もかかってしまいます。
いつ頃どのくらいの修繕費がかかりそうか、調べておきましょう。
合わせてこれまでの修繕履歴や回数、修繕や交換にかかった費用なども調べておくべきです。
1-6.管理会社や現状のプランを確認する
アパートを経営する場合、管理会社へ管理を任せるケースが多数です。
どのような管理会社にいくらで管理を任せているのか、管理プランがどのようになっているのかを把握しておきましょう。場合によっては管理会社を変更した方が良いケースもあります。
たとえば現場の管理プランが手厚すぎて高額になっている場合、プランを変更して管理費用を抑えられる可能性があります。一方、相続人にアパート経営の知識がなければ料金が上がっても委託範囲を広げることを検討する必要があるでしょう。
1-7.相続税の納付方法を検討する
アパートなどの遺産額が一定金額を超える場合、相続税を払わねばなりません。
相続税は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内に相続税の申告と納付が必要です。相続税は現金一括で支払わねばならないので、手元に現金がないと支払えない可能性もあります。払えないならアパートの売却も検討しなければなりません。
相続税が発生するのか、発生するならどのくらいの金額になりそうか、手元資金で支払えるのかどうかなど検討しましょう。
1-8.誰が相続するのか、売却するのかを決める
アパートを相続したら、誰かが相続するか売却するかを決定しなければなりません。
こういった事項は遺産分割協議によって定めます。
遺産分割協議に期限はありませんが、相続税申告時までに相続人が決まっていないと相続税の控除制度を適用できない可能性が出てきます。
また2024年4月以降は不動産を相続した場合に3年以内に相続登記をしないと違法状態になってしまいます。
アパートの相続人になったら、早めに遺産分割協議を行って誰が相続するのか、また売却するのかを決めましょう。
1-9.準確定申告を行う
アパートオーナーが死亡すると、相続人は「準確定申告」をしなければなりません。
準確定申告とは、本人が死亡して所得税の申告ができなくなったときに相続人が代わりに申告する制度です。相続人が複数いる場合には、全員の連名にて申告します。
準確定申告は、相続人が被相続人の死亡を知った日の翌日から4か月以内に行わねばなりません。通常の所得税のように「翌年3月15日まで」ではないので、勘違いしないように注意しましょう。
期限を過ぎると青色申告が取り消されるなどのデメリットがあるので、なるべく早めに準備して申告すべきです。
2.相続したアパートの経営を引き継ぐか売却するか決める方法
アパートを相続した場合、経営を引き継ぐか売却すべきかを決めなければなりません。
以下ではアパート経営を続ける場合と売却する場合、それぞれのメリットデメリットをお伝えします。
2-1.経営を引き継ぐメリット
経営を維持すると以下のようなメリットがあります。
- 資産を維持できる
- 長期的に賃料収入を得られる
- 高値になったときに売却して利益を得られる
2-2.経営を引き継ぐデメリット
一方アパート経営を引き継ぐと以下のようなデメリットがあります。
- 相続税が発生しても現金化できないので、支払い資金を用意しにくい
- 経営のノウハウがない場合、収支が悪化してしまう可能性がある
- 経営や管理の手間や時間がかかる
- 固定資産税や管理費用などの経費がかかる
2-3.売却するメリット
アパートを売却すると以下のようなメリットがあります。
- 固定資産税などの維持経費がかからなくなる
- 経営にかける労力が不要となる
- 相続人に経営のノウハウがなくても不利益を受けない
- 相続税の支払資金にできる
2-4.売却するデメリット
売却によって発生するデメリットは以下のようなものです。
- 売り急いで安値で売却してしまうケースがある
- 賃料収入を得られなくなる
- 資産を失ってしまう
- 将来値上がりしたとき、得られたはずの収入を得られない
3.アパートの経営を引き継ぐべき人や状況
それぞれのメリットデメリットを踏まえて、相続したアパートの経営を継続すべき人や状況を提示します。
3-1.相続人に経営ノウハウがある
相続人がアパート経営に詳しくノウハウがあるなら、経営を継続しても不利益を受けにくくなります。今は初心者でも意欲をもって学べる相続人がいる場合も同様です。経営継続を検討すると良いでしょう。
3-2.賃貸に適した物件である
賃貸経営に適した物件であれば、売却せずに手元に残す利益が大きくなります。
たとえば以下のような物件なら経営を継続すると良いでしょう。
- 人気エリアで、今後も長期的に需要が見込める
- 間取りや築年数など物件の状況からして、今後も需要を見込める
- 現状の入居率が高くこれまで賃料の滞納もない
- 周辺の類似物件の入居率が高い
3-3.相続人全員がアパートを残すことを望んでいる
相続人全員がアパートを残すことを望んでいるなら、遺産分割協議でアパート経営の継続に合意をとりやすくなります。経営の引き継ぎを希望する相続人がアパート経営を継続するのが良いでしょう。
3-4.相続税の支払資金に余裕がある、相続税が発生しない
アパートを売却しなくても相続税を支払える場合や相続税が発生しない場合、無理にアパートを売却して相続税の支払資金を用意する必要がありません。経営を継続しても良いでしょう。
3-5.オーバーローンで売却すると高額なローンが残る
オーバーローン物件で今すぐ売ると高額なローンが残る場合、売却後に相続人がローンを払わねばなりません。そういったケースでは経営を継続して賃貸収入からローンを返済していった方が良いでしょう。
4.アパートを売却すべき人や状況
以下のような人や状況であれば、アパートの売却を検討するようおすすめします。
4-1.相続人がアパート経営に慣れていない
アパート経営に慣れた相続人がいない場合、経営を引き継いでもうまくいかない可能性が高くなります。売却して経営から外れた方が無難でしょう。
ただし今は初心者でも経営を学ぶ意欲がある相続人がいる場合、この限りではありません。
4-2.経営に適していない物件である
以下のような物件はアパート経営に適していません。
- 周辺環境が悪い、不人気エリアで需要が見込めない
- 老朽化などで修繕費がかさみそうな物件で収支が赤字になりそう
- 入居率が低く募集しても入居希望者が集まらない
- 賃料を滞納している不良な賃借人が多い
上記にあてはまるようであれば、売却も視野に入れて検討した方が良いでしょう。
4-3.アパートを引き継ぎたい相続人がいない、全員が売却を望んでいる
アパート経営を引き継ぎたい相続人がいない場合、無理に相続しても経営に失敗するリスクが高まります。全員の合意によって売却するのが良いでしょう。
4-4.アパートを売却しないと相続税の支払資金を用意できない
アパートを売却しないと相続税を払えない状況であれば、無理に残さずに売却するのが得策と考えます。
5.アパートの遺産分割協議でもめやすいポイント
賃貸アパートを相続すると、遺産分割協議でもめやすい傾向がみられます。
以下のような点に注意して、もめないようにできるだけスムーズに遺産分割協議を進めましょう。
5-1.誰が相続するかでもめやすい
相続人のうち複数がアパートの引き継ぎを希望する場合、誰が相続するかを定められません。希望者全員の共有物件にもできますが、そうなると将来のトラブルが発生するリスクが高まります。
アパートの経営を引き継ぐなら、共有にはせず誰か1人が相続する内容の遺産分割を行うのが無難です。
5-2.アパートの評価額でもめやすい
賃貸アポートを相続すると、アパートの評価額について意見が合わずトラブルになるケースもよくあります。
アパートを誰か1人の相続人が引き継ぐ場合、その相続人が他の相続人へ代償金を支払わねばなりません。あるいは他の相続人にもアパートに見合った遺産を相続させる必要があります。ところがアパートには複数の評価方法があるので、相続人同士でどの評価方法をあてはめるべきか、意見が割れてしまうのです。
遺産分割時には、アパートは「時価」によって評価すべきと考えられています(相続税申告の場合には路線価や固定資産税評価額)。
もめないためには早めに不動産会社に査定を依頼するなどして、時価を調べて遺産分割協議を進めましょう。
5-3.売るか残すかでもめやすい
賃貸アパートを相続すると、売るか残すかで相続人の意見が割れてしまうケースも多々あります。もめてしまうと、遺産分割に数年以上かかり、親族関係が絶縁状態になってしまう事例も珍しくありません。
上記でご紹介したそれぞれのメリットデメリット、残すべき状況や売るべき状況などを参考に、適切な方法を検討しましょう。
5-4.アパートを共有名義にするとトラブルのもとになる
アパートの相続方法が決まらないために共有にするのは一般的にはおすすめできません。
共有にすると、売却やリフォーム、賃貸などの際に他の共有者と話し合って合意しなければならず、トラブルのもとになるからです。固定資産税や管理費用の精算や家賃収入の分配がうまくいかずもめてしまうケースも多々あります。
アパートの相続人になったら原則共有は避けて、誰か1人が相続するか売却するかのどちらかの選択が無難です。
千葉県八千代市のはながすみ司法書士事務所では、不動産の相続サポートに力を入れています。相続したアパートの遺産分割や登記などでお困りの場合、お気軽にご相談ください。
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