親が離婚している場合に子供が知っておく相続8つのポイント
親が離婚していても、子どもには親の遺産相続権があります。
親権者でない親の遺産相続権もあるので、ある日突然、音信不通だった親の相続人になってしまうケースも存在します。
そんなとき、遺産相続で他の相続人ともめてしまう可能性もあるので、慎重に対応しましょう。
この記事では親が離婚している場合に子どもが相続する場合の注意点を8つご紹介します。
親が離婚している方はぜひ参考にしてみてください。
1.親が離婚していても子どもに相続権がある
親が離婚していても、子どもには親の相続権があります。
離婚によって両親は他人になっても、子どもと親の関係は切れないためです。
たとえば両親が離婚して母親に引き取られた子どもがいるとしましょう。この場合、子どもは父親の遺産相続権も有します。父親が亡くなったときには離れて暮らす父親の遺産を相続できるのです。
より詳細に述べると、以下のようなケースでも子どもには親の遺産相続権が認められます。
1-1.同居の親が再婚した
同居の親が再婚しても、子どもと実親の相続関係はなくなりません。同居親だけではなく別居親の遺産も相続できます。
1-2.同居親の再婚相手と養子縁組した
同居親が再婚して再婚相手と子どもが養子縁組した場合でも、子どもと実親の遺産相続関係はなくなりません。この場合、子どもは実親と養親の両方についての遺産相続権を持ちます。
1-3.別居の親が再婚した
別居して暮らしている親が再婚した場合にも別居の子どもの遺産相続権は失われません。
別居の親が再婚したり再婚相手との間に子どもができたりしても同じです。
1-4.親権者でない親の相続もできる
両親が離婚すると、一方が親権者となります。親権者となった親の遺産はもちろんのこと、子どもは親権者とならなかった方の親の遺産も相続できます。
なお子どもが先に亡くなった場合、親が相続する可能性もあります。親は子どもについて第2順位の遺産相続権を持つからです。
2.養子縁組していない連れ子には相続権がない
それでは親の「連れ子」には遺産相続権があるのでしょうか?
たとえば父親と母親が離婚して母親に引き取られたとしましょう。その後、母親が新しい相手と再婚します。このとき、子どもは母親の再婚相手の遺産を相続できるのか、という問題です。
この場合、子どもと再婚相手が養子縁組するかどうかで結論が変わってきます。
再婚相手と養子縁組するなら再婚相手の遺産を相続できますが、養子縁組しなければ相続権は認められません。
「単なる連れ子」の場合、再婚相手とはあくまで「他人」だからです。
一方養子縁組すると法律上の親子関係ができるので、遺産相続できるようになります。
再婚相手との間でも親子関係を作って遺産相続させたい場合には、再婚相手と子どもを養子縁組させるのが良いでしょう。
3.未婚の夫婦の子ども
両親が未婚の場合には子どもに別れた親の遺産相続権が認められるのでしょうか?
たとえば両親が事実婚(内縁関係)の場合に両親が別れたら、子どもは親の遺産を相続できるのか、という問題です。
両親が未婚の場合でも、子どもは母親の遺産を相続できます。法律上、母と子どもの親子関係は明らかになるからです。親権者も通常は母親となっています。
一方、未婚の夫婦の場合、子どもと父親の親子関係が明らかになりません。子どもが父親の遺産を相続するには父親が子どもを「認知」する必要があります。認知とは、父子関係を法律上明らかにするための手続きです。
父親が認知しなければ、子どもは父親の遺産を相続できません。
3-1.認知の方法
認知は役所で認知届を提出すればできます。父親に認知を求める場合には、役所へ行って認知届を提出するよう促してみましょう。
3-2.父親が任意に認知しない場合の対処方法
父親が任意に認知しない場合には、子どもの方から裁判手続を使って認知を求められます。まずは認知調停を申し立て、それでも父親が認知しない場合には認知の訴えを提起するとよいでしょう。
3-3.父親が生前に認知しなかった場合
父親が生前に認知しなかった場合、死後であっても認知は可能です。
父親が遺言書で認知することを定めていたら、遺言執行者が子どもの認知を行います。
遺言がなくても、子どもの方から認知請求を行って認知を成立させられます。これを死後認知請求といいます。
ただし子どもの方から父親の死後に認知請求するには、死後3年以内に手続きしなければなりません。その期間をすぎると認知請求できなくなって遺産も相続できなくなるので、相続を希望する場合には早めに手続きしましょう。
4.親の借金を子どもが引き継がない方法
親が死亡すると、子どもは相続人になります。
長年連絡を取っていなかった親が突然死亡した場合でも、子どもは親の遺産を相続します。
この場合、親が借金を遺して死亡するケースがときどきあるので注意が必要です。
子どもは親の遺産を包括的に引き継ぐので、親に借金などの負債があれば相続してしまいます。親が離婚していても負債の相続に影響はありません。
また引き継がれる親の負債は「借金」に限りません。以下のような負債はすべて相続されます。
- キャッシング、カードローン
- 銀行ローン
- マイカーローン
- 奨学金
- 保証債務
- 未払いの税金、健康保険料
- 未払いの家賃
- 未払いの水道光熱費
- 未払いのネット通信量、スマホ代など
遺産の中から負債を支払えない場合、子どもは自分の財産から支払いをしなければなりません。子どもも債務を払えない場合には、子ども自身が自己破産しなければならない可能性もあります。
相続放棄や限定承認によって対応する
子どもが離れて暮らす親の借金を引き継ぎたくない場合には、相続放棄や限定承認によって対応しましょう。
相続放棄とは
相続放棄とは、家庭裁判所に申述することによって一切相続しないことです。相続放棄すると、その人は被相続人の資産も負債も地位も一切相続しません。はじめから相続人ではなかったことになります。借金や未払い金も一切払わなくて良くなるので、借金を引き継ぎたくない方はよく利用する手続きです。
ただし相続放棄すると、負債だけではなく資産も引き継げなくなってしまいます。遺産を差し引きしたときに資産超過になっているなら、相続放棄しないほうが経済的にはメリットがあるでしょう。
一方、債務超過になっていたら相続するメリットがほとんどないので、相続放棄するようおすすめします。
限定承認とは
限定承認とは、相続人全員が家庭裁判所へ申述することによって資産と負債を通算し、あまりがある場合にのみ相続する方法です。
限定承認をすると、遺産のうち資産から必要な支払いをして残った分を相続できます。あまったプラスの資産がない場合やマイナスになる場合には相続しません。
ただ限定承認するには相続人が全員足並み揃えて限定承認の申述をしなければなりません。1人でも単純承認を希望する相続人がいたら限定承認できません。また相続財産管理人を選任して長い期間をかけて清算手続きをする必要もあります。
限定承認よりも相続放棄の方が手軽にできるので「離婚した親の負債を相続したくない」というだけなら相続放棄を選択したほうが良いでしょう。
5.別れた親自身は相続人にならない
両親が離婚した場合、親には相続権が認められません。親同士は離婚して他人になっているからです。
たとえば父親と母親が離婚して子どもが父親の相続人となる場合、母親は父親の遺産相続をしません。
6.親が離婚している場合の子どもの相続分
親が離婚している場合、子どもにはどのくらいの相続分が認められるのでしょうか?
この場合、親の離婚前と同等の相続分が認められます。離婚前の子どものみが相続人の場合には子どもが全部相続しますし、親が再婚して再婚相手や再婚相手の子どもと相続する場合には、再婚相手の子どもと同じだけの相続分が認められます。
離婚しているからといって、子どもの相続分が減らされるわけではありません。
たとえば父親が亡くなり、父親には再婚相手(死亡時の妻)と2人の子ども(死亡時の家族の子ども)がいるとしましょう。この場合、離婚した子どもには死亡時の家族の子どもと同様に6分の1ずつの遺産相続分が認められます。
具体的には現在の妻(再婚相手)が2分の1、再婚相手との子どもがそれぞれ6分の1ずつ、離婚した子どもの相続分が6分の1となります。
以上のように、離婚した子どもにも死亡時の家族の子どもと同等の遺産相続分が認められるので、間違えないように理解しておきましょう。
7.遺言がある場合の子どもの相続分
親が離婚している場合、親が相続対策のために遺言書を遺しているケースが多数です。
遺言書で「現在の家族に遺産のすべてを相続させる」と書かれていたら、離婚前の子どもは遺産を相続できないのでしょうか?
遺言書に書かれている内容は法定相続に優先するので、上記のような遺言書があると、基本的に離婚前の子どもは遺産を相続できなくなってしまいます。
7-1.遺留分侵害額請求について
ただし離婚前の子どもには「遺留分」が認められます。遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められる最低限の遺産取得割合です。遺言によっても遺留分を侵害できません。
子どもにも遺留分が認められるので、遺言書によって相続権を奪われても、最低限遺留分に相当する分については取り戻しができます。
具体的には「遺留分侵害額請求」と行って、金銭請求の方法で遺産を取り戻すことになります。なお遺留分侵害額請求をしても、遺産そのものを取り戻せるわけではありません。
7-2.遺留分の計算方法
子どもが遺留分を請求する場合の遺留分は、基本的に遺産の2分の1の割合です。
その割合を法定相続分に分割したのが個別的な遺留分の割合となります。
たとえば死亡した父親に再婚相手との間に子どもが2人いて、子ども3人(再婚相手の子ども2名と離婚前の子ども1名)が遺産相続するとしましょう。この場合、離婚前の子どもには2分の1×3分の1=6分の1の遺留分が認められます。
遺留分侵害額は、遺留分の侵害と相続開始を知ってから1年以内に請求しなければなりません。時間が経過すると遺留分侵害額請求できなくなってしまうので、納得できない遺言書がある場合には早めに遺留分侵害額請求をしましょう。
8.親が離婚していて子どもが相続する場合の注意点
親が離婚していて子どもが相続する場合、以下のような点に注意が必要です。
8-1.遺産分割でもめる可能性が高い
遺産分割時、死亡時の家族と離婚前の子どもの意見が合わずにもめてしまうケースが多々あります。親の生前にはお互いにほとんどかかわりがないケースも多く、立場や考え方が異なるためです。
遺産分割協議がまとまらない場合には、弁護士に相談して、家庭裁判所で遺産分割調停を申し立てると良いでしょう。調停では調停委員が間に入って相続トラブル解決の調整をしてくれます。
8-2.子どもが未成年の場合の遺産分割方法
子どもが未成年の場合、子ども自身が遺産分割協議に参加できません。この場合、親権者が遺産分割協議に参加する必要があります。
たとえば再婚相手とその子ども、離婚前の子どもの3人が相続人になるとしましょう。この場合、離婚前の子どもが未成年なら、再婚相手とその子ども(実際には親権者である再婚相手)、離婚前の子どもの親権者となっている親が話し合って遺産分割協議を進めなければなりません。そうなるとお互いに立場が違うので、感情的になってもめてしまいがちです。
トラブルにならないように、相手の立場を尊重しつつ遺産分割を進めていきましょう。
8-3.相続税がかかる可能性もある
離婚した親の遺産を相続すると、相続税がかかる可能性があります。
遺産全体が相続税の基礎控除を超えると、相続税がかかるためです。
相続税の基礎控除
- 3000万円+法定相続人数×600万円
相続税が課税される場合、相続発生を知ってから10か月以内に相続税の申告と納税をしなければなりません。相続税の計算や申告には時間もかかるので、遅れないように早めに準備しましょう。
はながすみ司法書士事務所では遺産相続に力を入れて取り組んでいます。お困りの方がおられましたら、お気軽にご相談ください。
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