相続放棄で押さえておきたい【8つの注意点】
相続放棄する際には、注意しなければならない事項がいくつもあります。
たとえば期間制限をすぎると、家庭裁判所で相続放棄の申述が受理すらされなくなってしまいます。確実に相続放棄を行ってトラブルを起こさないために、法律的な知識を押さえておきましょう。
この記事では相続放棄の際に押さえておきたい8つの注意点について、相続の専門家がお伝えします。
これから相続放棄しようと考えている方はぜひ参考にしてみてください。
相続放棄の注意点8つ
相続放棄する際には、以下の8つの点に注意しましょう。
- 相続放棄に期間制限がある
- 相続開始前には相続放棄ができない
- 相続人全員が相続放棄をしたら財産は誰のものになるのか
- 相続人が全員相続放棄した場合の管理義務について
- 相続放棄と代襲相続の関係
- 相続放棄したいなら、財産に手を付けてはならない
- 相続放棄と生命保険の関係
- 相続土地国庫帰属制度と相続放棄の関係
それぞれについて詳述します。
1.相続放棄に期間制限がある
相続放棄はいつまででもできるわけではありません。期間制限があるので、遅れないように注意が必要です。
具体的には「自分のために相続があったと知ってから3か月以内」に家庭裁判所で相続放棄の申述をしなければなりません。この3か月を「熟慮期間」といいます。
「自分のために相続があったと知った時期」は多くの場合、「相続発生を知った時期」と一致します。よって、被相続人が死亡したことを知ったら、その時点から3か月以内に相続放棄の申述をしなければなりません。
ただし遺産がないと信じており信じたことに正当な理由があれば、3か月を過ぎても相続放棄できる可能性があります。
また相続人が海外居住などで相続財産調査に時間がかかる場合などには、相続放棄の期間である熟慮期間の延長も認めてもらえるケースがあります(熟慮期間伸長の申立は熟慮期間内に行う必要があります)。
必ずしも「被相続人の死亡を知ってから3か月以内」でないと相続放棄できないわけではないので、もしも期間が過ぎてしまっているように思えても、諦めずに司法書士までご相談ください。
2.相続開始前には相続放棄ができない
法律上のルールとして、相続開始前には相続放棄ができません。
被相続人が死亡してからでないと、家庭裁判所で相続放棄の申述は受け付けてもらえないのです。
また相続放棄は家庭裁判所で受理してもらう必要があります。一部の相続人が他の相続人に対し「相続しません」などと宣言することもありますが、これは法律的な意味での相続放棄ではありません(相続分の放棄といいます)。
相続放棄の目的は借金を免れるためや、他の相続人に遺産を集中させるためなどさまざまですが、いずれにせよ、生前の相続放棄はできないことを覚えておきましょう。死後には期間制限があるので、急いで行うことも重要です。
3.相続人全員が相続放棄をしたら財産は誰のものになるのか
もともと相続人だった人でも相続放棄をすると、その人は「初めから相続人ではなかった」扱いになるので相続人の地位を失います。
相続放棄して相続人でなくなったら、次順位の相続人へと相続権が移ります。たとえば子どもが全員相続放棄して親がすでに他界していれば、兄弟姉妹が相続人になります。
では相続人が全員相続放棄したら、遺産は誰のものになるのでしょうか?
この場合、遺産は最終的に国のものになります。
相続人がいない場合「相続財産管理人」によって遺産が債権者へ配当されたり受遺者へ分与されたり特別縁故者へ分与されたりして、最終的にプラスの部分があれば国庫に帰属されるのです。
4.相続人が全員相続放棄した場合の管理義務について
相続人が全員相続放棄したら、財産は最終的に国のものになりますが、いきなり国に帰属するわけではありません。相続財産管理人という人により、適正な手続きを踏んだ上で国に帰属させられます。
また相続放棄者は、相続財産管理人が選任されるまで相続財産を適正な方法で管理しなければなりません。法律上、相続放棄者にも財産の管理義務が及ぶためです。きちんと管理しなかったために他人に損害を与えたら、相続放棄者であっても損害賠償しなければならない可能性があります。
(相続の放棄をした者による管理)
民法第940条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
自分が相続放棄して他に相続人がいなくなってしまったら、管理義務を免れるためにも早めに相続財産管理人を選任して財産の引き継ぎを行いましょう。
4-1.改正法による管理義務の変更
2023年4月1日、改正法によって上記の相続財産管理義務の内容が変わります。
改正民法では、相続財産管理義務について以下のように規定されます。
民法940条1項
相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
従来の民法からの変更点
従来は相続放棄した相続人に管理義務が規定されていましたが、改正法では義務が課されるのは「現に財産を占有している相続人」に限定されます。現に不動産などの財産を占有していなければ、管理義務も保存義務も負いません。これにより、責任を負う相続人の範囲が相当狭められるといってよいでしょう。
また義務の種類についても変更が及びます。具体的には、従来は「管理義務」であったものが「保存義務」に変わります。
さらに、従来は管理義務の「終期」が明らかでなかったところ、改正民法では「相続人または相続財産管理人に当該財産を引き渡すまでの間」とされ、義務の終期も明らかにされました。
相続放棄した相続人は、他の相続人や相続財産管理人に財産を引き渡せば保存義務を免れます。
改正民法の概要まとめ
以上をまとめると、改正民法のもとでは、「もともと不動産などの財産を占有していた相続人」にのみ管理義務が及び、その義務は他の相続人や相続財産管理人に財産を引き渡せば消滅する、ということになります。
4-2.相続財産管理人の選任方法
相続財産管理人とは、相続財産を管理して清算手続きを進める人をいいます。選任したい場合には、利害関係人が家庭裁判所へ選任を申請しなければなりません。
利害関係人には、被相続人の債権者や特別縁故者などが該当します。相続放棄者も利害関係人として相続財産管理人の選任を請求できます。
相続財産管理の選任申立をする場合、「予納金」がかかる可能性があります。予納金の金額は裁判所が決めるのでケースによって異なりますが、高額になる場合も少なくありません。
5.相続放棄と代襲相続の関係
次に相続放棄と代襲相続の関係について、理解しておきましょう。
相続放棄とはもともと相続人だった人が家庭裁判所で相続放棄の申述を行い、資産も負債も一切を相続しないことです。
一方、代襲相続とは、相続人が被相続人よりも先に死亡している場合などに相続人の子どもが代わりに相続することをいいます。たとえば子どもが親より先に死亡しているケースで親が死亡したら、子どもの子どもである孫が相続人になります。これが代襲相続です。
以上のように相続放棄と代襲相続はまったく無関係な制度なので、混乱しないようにしましょう。
相続放棄しても代襲相続は発生しない
ときどき「相続放棄したら代襲相続が起こって自分の子どもが相続しなければならないのではないか?」と心配される方がおられます。たとえば借金を相続したくないので相続放棄を希望していても、子どもに相続が及ぶのをおそれて相続放棄を躊躇するケースなどです。
しかし相続放棄しても代襲相続は発生しません。たとえば親の借金を相続したくないので子どもが相続放棄した場合、孫が代襲相続人として相続することはありません。相続放棄の際、代襲相続について心配する必要はないといえるでしょう。
ただし相続放棄すると次順位の相続人へ相続権が移るので、次順位の相続人には注意を促しておく必要があります。次順位の相続人に相続放棄を告げないと、相続放棄後に債権者から次順位の相続人へ督促が来てトラブルになるケースもあるので注意しましょう。
6.相続放棄したいなら財産に手を付けてはならない
相続放棄したい場合、遺産に手を付けてはなりません。遺産を使ったり自分のものにしたりすると、相続放棄できなくなってしまうからです。
たとえば被相続人の預金を使ったり不動産を売却したりすると、相続放棄は認められません。「法定単純承認」が成立するためです。法定単純承認とは、法律上、当然に単純承認が成立してしまうことをいいます。
- 単純承認…相続に条件をつけずに資産も負債も相続すること
いったん相続放棄が受理された後であっても、相続財産に手を付けると効果が失われてしまいます。
借金を相続したくないなどの事情で相続放棄したいなら、絶対に遺産に手を付けないように注意しましょう。
ただし葬儀代として使う場合、一般に許容される程度の金額であれば単純承認にはなりません。とはいえ一般的に許容する程度という基準はあいまいです。どの程度までなら使っても良いか判断がつきにくい場合、自己判断をせずに専門家へ相談しましょう。
7.相続放棄と生命保険の関係
相続放棄するなら法定単純承認が成立する行為をしてはなりません。
そこで「生命保険の死亡保険金を受け取ったら法定単純承認が成立して、相続放棄できなくなるのでは?」と心配される方がおられます。
しかし死亡保険金を受け取っても、基本的に法定単純承認は成立しません。
死亡保険金は、指定された受取人の「固有財産」と考えられているからです。
被相続人によって指定された「受取人」として死亡保険金を受け取る場合には、お金をもらっても相続放棄できるので安心しましょう。
積立式保険の解約返戻金を受け取って相続放棄できなくなるケース
ただし積立式保険の解約返戻金を相続人が受け取ると、相続放棄できなくなる可能性があります。生命保険の解約返戻金は、契約者へ支払われるものだからです。
被相続人の死亡によって解約返戻金が支払われる場合、解約返戻金は契約者であった被相続人へと支払われます。つまり被相続人の財産となるのです。そうなると、相続人が解約返戻金に手を付けると被相続人の遺産に手を付けた結果となり、法定単純承認が成立してしまいます。
よって死亡保険金の受取人が指定されておらず被相続人本人が受け取る契約や被相続人へ解約返戻金が支払われる契約になっているケースでは、相続放棄したい人は保険金や解約返礼金を受け取ってはなりません。
以上のように、生命保険については「受け取っても良いケース」と「受け取ってはいけないケース」の2とおりが存在します。どちらになるか分からず判断に迷う場合には、自己判断せずに専門知識を持った司法書士などに相談しましょう。
8.相続土地国庫帰属制度と相続放棄の関係
相続放棄と関連して、相続土地国庫帰属法も知っておきましょう。
相続土地国庫帰属法とは、相続した土地を国に返せる制度です。
遺産の中でも、特に「土地」を相続したくない場合には、国に引き取ってもらえる可能性があります。
8-1.相続土地国庫帰属制度と相続放棄との違い
相続放棄と相続土地国庫帰属制度とのもっとも大きな違いは、相続放棄の場合にはすべての資産や負債を承継しなくなるのに対し、相続土地国庫帰属制度の場合には土地のみ相続しなくなることです。
たとえば以下のような場合、相続土地国庫帰属制度を利用するのが良いでしょう。
- 遺産のうち、土地のみ相続したくない場合(他に承継したい資産がある場合など)
一方、以下のような場合には相続放棄すべきです。
- 借金を相続したくない
- 資産は要らない、遺産の中に資産がない
- 特定の相続人に遺産を集中させたい
また相続土地国庫帰属制度は、すべての土地に適用されるわけではありません。崖地や埋設物がある土地、建物が建っている土地などの場合、利用できない可能性があるので注意が必要です。費用負担も発生します。
8-2.相続土地国庫帰属制度が始まる時期
相続土地国庫帰属制度が開始するのは、2023年(令和5年)4月27日からです。
相続土地国庫帰属制度について、詳しくはこちらの記事をご参照ください。
まとめ
今回は相続放棄する場合の注意点を8つ、ご紹介しました。相続放棄には期限があり、法定単純承認が成立してしまったら相続放棄できなくなるなどの注意点もあります。
相続放棄を安全かつ確実に行うには、専門知識が必要といえるでしょう。
千葉県の、はながすみ司法書士事務所では遺産相続のサポートに力を入れて取り組んでいます。相続放棄をご検討の方がおられましたら、お気軽にご相談ください。
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