相続財産に暗号資産があるケースにおける注意点
お亡くなりになった方が「暗号資産」を保有していた場合、相続人としては資産状況を把握しづらく「遺産分割が難しい、複雑」と感じるケースが多々あります。
相続人が暗号資産の存在を見逃してしまう可能性もあるので、被相続人としては資産内容を把握しやすいように生前のうちから対処しておくことが重要といえるでしょう。
今回は相続財産に暗号資産が含まれている場合の対処方法をお伝えします。
暗号資産を相続してしまった方、相続人へ暗号資産を引き継がせるご予定の方はぜひ参考にしてみてください。
1.暗号資産の存在を把握する方法
もしも被相続人が暗号資産を保有している可能性がある場合、相続人としてはどのようにして調べれば良いのでしょうか?
まずは日本国内の仮想通貨交換所(暗号資産取引所)を調査してみましょう。
日本で公式に認可・登録されているのは、国内の一部の仮想通貨交換所に限られます。海外の未認可の取引所を利用している人もいますが、多くはありません。まずは日本国内で登録されている仮想通貨交換所を調べれば、だいたいの暗号資産を把握できるでしょう。
仮想通貨交換所に対する財産調査方法は、証券会社で株式などを調査する場合とほとんど同じです。対象の仮想通貨交換所に連絡を入れて相続人である資料を示し、情報照会すればどういった暗号資産が交換所内で保有されているかがわかります。
1-1.どこの仮想通貨交換所を利用しているかは特定しなければならない
日本国内の仮想通貨交換所にもいくつかの種類があり、情報照会するには被相続人がどの仮想通貨交換所を使っていたのか特定しなければなりません。
仮想通貨交換所の調べ方
被相続人のスマホを開いて、仮想通貨交換所のアプリや暗号資産管理アプリがあれば、ユーザーページをみてみましょう。ウォレットを見れば保有している暗号資産の種類や残高を確認できるケースが多数です。
仮想通貨交換所からのメールや郵送物によって契約や売買の履歴が判明するケースもあります。被相続人が重要な書類をしまっていた場所も確認してみましょう。
1-2.仮想通貨交換所での手続き方法について
被相続人が使っていた仮想通貨交換所が判明したら、ホームページにアクセスしましょう。ユーザーサポートメニューを開いて相続方法に関する情報を参照してみてください。
暗号資産を相続する手順の案内が掲載されています。
具体的には以下のようなステップを踏むケースが多数となっています。
STEP1 代表相続人が所定の書類を仮想通貨交換所へ提出する
複数の相続人がいる場合、具体的に相続手続きを行う相続人を選定する必要があります。まずは相続人の代表者を決めましょう。
そして被相続人(契約者)の除籍謄本や相続人であることを確認できる資料、代表相続人の本人確認書類、手続き申請書などを仮想通貨交換所へ提出します。
STEP2 仮想通貨交換所が代表相続人に資料を送る
書類に不備がなければ仮想通貨交換所が代表相続人へ残高証明書などの資料を送付してきます。
STEP3 代表相続人が相続に関する意向を仮想通貨交換所へ伝える
暗号資産を相続したい場合には、代表相続人が仮想通貨交換所へと相続に関する意向を伝えます。
STEP4 暗号資産が日本円に換算されて、代表相続人の口座に振り込まれる
相続人が暗号資産の相続を希望する場合、暗号資産は日本円に換金されて代表相続人の口座へ振り込まれます。
2. 海外の取引所の場合
被相続人によっては、日本国内で認可・登録された仮想通貨交換所ではなく海外の未登録の取引所を利用している場合があります。
海外の取引所の場合、日本国内の仮想通貨交換所と違って相続の枠組みが整備されておらず、スムーズに相続手続きを進めるのは困難となるケースが多々あります。日本語に対応していない場合も多数です。迷ったときには暗号資産やデジタルに詳しい専門家に相談した方が良いでしょう。
マイニングや個人間取引について
仮想通貨に詳しい被相続人であれば、生前にマイニングをしていた場合も考えられます。マイニング(採掘)とは、パソコンで高負荷な処理を行うことにより、仮想通貨を取得する方法です。また仮想通貨交換所を通さずに、個人間取引で他のユーザーから直接暗号資産を購入して、自分のウォレットで保管している場合もあります。
被相続人がマイニングしていた場合や個人間取引をしていたケースでは仮想通貨交換所を通じた財産調査ができません。調査方法が複雑になるので、遺産相続の専門家に相談した方が良いでしょう。
3.NFTやDefiを利用していた場合
被相続人が仮想通貨交換所で暗号資産を保有していた場合には、仮想通貨交換所のウォレットを見ると残高がわかりますし、銀行預金からの送金記録によって暗号資産の存在を確認できるケースもあります。比較的財産内容を把握しやすいといえるでしょう。
一方、被相続人がNFTやDefiなどの取引を行っていた場合には財産調査のハードルが一気に上がります。
NFTやDefiなどを行う場合、「メタマスク」などのウォレットに暗号資産を保管しているケースが多数です。
メタマスクなどのウォレット内で暗号資産が保管されている場合でも、パスワードが判明していて被相続人が普段アクセスしていたPCを使うことができればウォレットにアクセス可能です。一方、パスワードが不明なケースや別のPCなどの媒体でログインしたい場合、「シークレットリカバリーフレーズ」が必要になってしまいます。
つまりパスワードやシークレットリカバリーフレーズが不明な状態では、仮想通貨にアクセスすることすら難しくなってしまうのです。
また暗号資産のウォレットにもいろいろな種類があり「メタマスク」だけに限られません。財産調査の際には「メタマスク」なのか「ファントム」なのかなども特定する必要があります。
被相続人の立場としては、相続人が財産調査で困らないために以下のような情報をまとめておくべきといえるでしょう。
- どのような暗号資産を保有しているか
- 使っているウォレットの種類
- ウォレットのパスワード
- シークレットリカバリーフレーズ
エンディングノートなどの書類に情報をまとめておきましょう。ただし情報の悪用を防ぐため、生前は勝手に見られないように鍵の付いた引き出しなどで厳重に保管しておくようおすすめします。
4.相続財産がマイナスになっていないか?
暗号資産が遺された場合、資産価値の把握も重要です。
暗号資産は非常に資産価値の変動が激しい資産です。数日のうちに数十%も価値が変動するケースも珍しくありません。
そこで被相続人が暗号資産の先物取引をしていた場合、相続時には、プラスであってもその後、マイナスに転じて相続人が負債のみを相続してしまうケースも考えられます。
負債を相続したら、相続人自身がその負債を払わねばなりません。
相続人としては、相続した暗号資産がマイナスになっていないか調べることも重要といえるでしょう。
相続財産がマイナスだった場合の対処方法
もしも相続した暗号資産がマイナスであれば、相続人としては相続放棄や限定承認を検討すべきです。相続放棄や限定承認をすると、相続人は負債を相続しないで済みます。自らの資産で被相続人の負債を弁済する必要はありません。
ただし相続放棄や限定承認は「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内」に行う必要があります。
被相続人が利用しているウォレットや仮想通貨交換所の情報を書き残しておかなければ、相続人が3か月の間に被相続人のすべての暗号資産を把握するのは難しくなるでしょう。
もしも相続人が3か月では暗号資産の調査が終わらず相続放棄するか決められない場合には、「熟慮期間伸長の申立」を行いましょう。熟慮期間とは、相続放棄や限定承認ができる3か月の期間です。熟慮期間伸長の申立が認められると、3か月の期間を延長してもらえるのでその間に暗号資産の調査を進められます。
ただ熟慮期間伸長の申立をしても、必ず認められるとは限りません。伸長が必要な理由をしっかり説明する必要もあります。
自分で手続きすると失敗してしまう可能性もあるので、熟慮期間伸長の申立をするなら相続に詳しい専門家に相談しましょう。
5.暗号資産は相続税の対象になる
暗号資産を相続した場合には、相続税の対象になるので注意が必要です。
暗号資産にはビットコインやイーサリアム、リップルコインやモナコインなどさまざまな種類がありますが、亡くなったときの価値に応じて相続税が課税されます。
暗号資産が仮想通貨交換所に保管されておらず相続人がメタマスクなどのウォレットで保管していた場合にも、やはり仮想通貨は課税対象になります。
5-1.相続税が課税されるケース
仮想通貨を相続しても、すべてのケースで相続税が課税されるわけではありません。
相続税がかかるのは、遺産が全体として「基礎控除」を超える場合です。
相続税の基礎控除
- 3000万円+600万円×法定相続人の人数
暗号資産を含めて遺産全体を評価したときに上記の基礎控除を下回る場合には相続税の申告や納付をする必要はありません。
5-2仮想通貨の相続税評価方法
仮想通貨に相続税がかかるかどうか確認するには、仮想通貨を「評価」しなければなりません。
国税庁によると、仮想通貨の相続税評価方法は以下のとおりです。
- 活発な市場がある仮想通貨の場合
仮想通貨交換業者(取引所や販売所)が示す相続発生日の取引価格で評価する
- 活発な市場がない仮想通貨の場合
仮想通貨の内容や性質、取引実態などを勘案して個別に評価する
ただしどの通貨が「活発な市場がある仮想通貨」であるかまでは明示されていません。
基本的には仮想通貨交換所で多数の仮想通貨が頻繁に取引されていて、継続的に価格に関する情報が提供されている種類の暗号資産であれば、活発な市場があると評価して良いでしょう。
なお仮想通貨を仮想通貨交換所に預けている場合、仮想通貨交換所から「残高証明書」を交付してもらえます。残高証明書に死亡日の取引価格が書かれていたら、そこから相続税評価額を求められるので、評価は難しくありません。
5-3.相続税の申告期限
相続税がかかる場合、相続税の申告や納付期間は「相続開始を知ってから10か月以内」となっています。
期限内に相続税を払わないと、延滞税や加算税の対象となってしまう可能性もあります。
暗号資産の場合、調査に手間取って日数が経過してしまうケースも考えられるでしょう。
相続税の申告納付期限に間に合わせるため、暗号資産を相続した可能性があればすぐに調査に着手すべきです。手にあまるようであれば、相続の専門家に相談してみてください。
6.暗号資産を残す場合に相続人へ伝えるべきこと
被相続人の立場として暗号資産を残す場合に相続人へ伝えるべきことを確認しましょう。
暗号資産は非常に複雑で、仮想通貨交換所に保管されていない場合には相続人が調べるのも困難になりがちです。
暗号資産を残すなら、相続人たちが暗号資産を調べやすいように手がかりを残しておくべきです。
暗号資産を含めた詳細な遺産目録を作成したり、以下の情報をノートに書き残したりして相続人へ必要な情報を伝えましょう。
- どこの仮想通貨交換所へ暗号資産を預けているか
- 使用している仮想通貨交換所のIDやパスワード
- 保有している仮想通貨の種類
- メタマスクなどのウォレットを利用している場合にはその種類
- ウォレットのパスワードやシークレットリカバリーフレーズ
- NFTやDefiを利用しているか
- 海外の仮想通貨交換所(取引所)を使用しているか、どこの取引所を利用しているか
- 各取引所のIDやパスワード
上記の情報を残しておけば、相続人たちが困るリスクが大きく低減されます。
7.暗号資産の相続方法についてご不明点があればご相談ください
被相続人が暗号資産を残した場合、相続人にかかる財産調査の負担が大きくなります。
調査に限界を感じる相続人の方も多くいらっしゃるでしょう。もしも暗号資産を相続してわからないことがあれば、相続の専門家に相談してみるようおすすめします。
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